決断力 ★★★☆☆

書評
私が学生のころ、将棋や公文のCMでよくテレビに出演されていた羽生善治さんの『決断力』をアマゾンで買ってみました。この本は、著者が将棋界の人であることもあって、常に将棋の世界を踏まえて語られます。しかし、決断力とは何か、どういう状況で、どのような判断を下し、どのように決断するのがいいのかということよりは、プロ棋士としてどのような姿勢で将棋に臨んでいるかということのほうに重きがおかれているような印象を受けました。将棋とは何か、プロの棋士とは何か、プロ棋士同士の対局とは何か、将棋とスポーツの共通点、情報化社会以前の将棋と現代の将棋、これからの将棋というような感じで語られます。

決断には、事前の綿密な研究と戦略が重要だ!
印象に残ったことはいくつかあります。まず、第二章第七節第一項『事前研究が三、四割を占める』という部分です。私は将棋にはあまり詳しくないのですが、将棋も対局前に作戦・戦略があり、どのような展開で勝負を挑むかを準備している人は強いということです。将棋にも定跡(じょうせき)がありますが、対局前に勝負に使う形を徹底的に研究して、相手がどのように攻めてきても、常に自分のペースで流れを作れるように研究している人は、羽生さんにとっても手ごわいそうです。綿密な研究によってバトルフィールドで常に優位性を保つという発想はすごい。これは孫子ふうに言えば、戦う前から勝利を手にしているということでしょう。勝負師の世界では、やはり兵法と共通する部分があることを確認できてうれしかった瞬間です。

直感の七割は正しい
プロの将棋には、長考するような場面が現れます。長考というのは、文字通り3時間でも4時間でも考え続けるということです。しかし羽生さんは、長く迷うよりも直感に従ったほうがいいと述べます。これは単なる勘に頼るわけではありません。毎日将棋の研究を欠かさないプロとしての瞬間的なひらめきのことです。ベテラン棋士は全体や大筋が見えていますから、その中で流れをつかむのは難しくない。羽生さんは大局観ということを講演会でも述べておられますが、物事や流れの全体像がはっきり見えていれば、細かいところでつまずくことはないということです。そういう中での直感ですから、まさにプロの研ぎ澄まされた感覚が刹那の瞬間に見い出した最善手です。日々精進を続けている勝負師にとって、直感は何時間も考えるよりもいい結果をもたらしてくれます。

持続できることが才能だ!
子ども世界では瞬間的なひらめきや、偶然によるいい結果が目を惹(ひ)くことがあります。しかし、大人の世界は違います。大人の世界では、子どものころのように道に制限が加えられていませんから、高みを目指そうとすれば、いくらでも上を目指せます。そうした時に地道な努力を継続して、常に芸や勝負の道を探求し続けることができるかどうかが人生を大きく分けます。一時的によい結果を出しても、そのあと努力を怠れば、力は確実に落ちます。どんな境遇にいても、自分の進むべき道を歩み続けられた者だけが真の成果をあげられます。現代人はとかく誘惑の多い生活をしていますから、一つのことを続けるというのはなかなか難しいかもしれません。しかし、そんな中にあっても、努力を続けられる人だけが本当の意味での力を身に付けることができると、継続性の重要さを説いています。

この本は将棋の世界での体験を基に書かれているので、いわゆるノウハウ本やハウツー本のように、どうすれば、どうなるという書き方はしていません。そこがちょっと要点をつかみにくい点ではあります。しかし、本当の意味での勝負師の語る勝負に勝つためのエッセンスが盛り込まれていますので、将棋に勝ちたい人はもちろんのこと、何かの勝負に勝ちたいと思っている人は、読んでみて絶対に損はしません!
 
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