蝿の王 ★★★★★

小説
英文学として有名な蠅の王。洋書のリーディングレベルは8.1となっており、それほど難しいというわけではなさそうだ。今回は洋書を読む前の準備として、まず日本語訳を読んでみることにした。この物語は少年漂流記だ。戦争中にイギリス本土から疎開した少年たちの乗った飛行機が撃墜された。生き残った少年たちは無人島に流れ着き、そこで集団生活を送ることになる。物語はラーフと呼ばれる少年を中心に展開される。ラーフは無人島で少年たちを呼び集め、会議を開いた。そこで多数決で少年たちのリーダーになるが、ラーフとジャックの関係は初めからギクシャクし、ジャックを中心とした合唱隊の少年たちと対立してしまう。ジャックは合唱隊を狩猟隊としてまとめあげ、ほかの子どもたちに豚肉をごちそうすることで仲間を増やし、ラーフを孤立へと追い込む。この間、豚を殺すことで生き物を殺すことに抵抗感をなくしたジャックとロジャーはピギーを殺害する。ラーフに憎悪を燃やすジャックは、ラーフを殺すため島の端まで追い詰めるが、危機一髪でイギリス海軍の巡洋艦が少年たちを救出する。この物語で少年たちを捉える「獣」の存在こそが、まさにベルゼバブ、蠅の王なのである。

私が一番印象に残ったのは、やはりサイモンと、獣にささげられた豚の頭──初めて姿を具現化した蠅の王──との対話である。私は、獣とは少年たちの心の内に巣食う凶暴性と解釈したが、サイモンはそういう獣と向き合う力があった、ただ1人の少年なのである。サイモンは、ほかの少年たちが恐れるものを自分の目で確かめようとする勇気があり、また恐怖や凶暴性と向き合うことができた少年だ。この少年は蠅の王(蠅がたかる豚の頭)から、ひどい目にあわせてやるという宣告を受ける。そして、サイモンは少年たちの狂気の踊りに入り込んでしまい、そこで獣と間違えられ、集団で暴行され殺されてしまう。

豚を殺すという「殺害」に対する心理的抵抗の一線を超えてしまった狩猟隊は、人の命を奪うこともいとわない。通常、そういう一線を超えた人たちは、理性を保つために厳しい戒律を設け、自己規律を維持しようとするが、少年たちはそこまでいかずに、まさにテロリストのようになってしまった。この物語では人間の一番野蛮な性質を描き出している。

私が初めて「蠅の王」を読んだのは2008年だったが、今回は英語学習のために改めて音読してみた。やはり、この本で一番目を惹(ひ)くのは、パラダイスを思わせる無人島の繊細な描写だ。著者のウィリアム・ゴールディング自身が戦争を体験したこともあって、島のサンゴ礁、礁湖などの紅色に彩られた風景を、とても細かく描写している。実際にそういう風景を見たことのない者には、イメージするのが非常に難しいほどだ。少なくとも私には難しかった(笑) ノーベル文学賞を受賞した作品だけあって、表現力においては秀逸な印象を受けた。ただ、翻訳が文語体なので、少年たちのセリフまで「~のだ」という言い回しがあり、少年らしさが欠けていた。そこがちょっと残念。物語全体においても、テーマがベルゼバブ、蠅の悪魔を主題としているので、少年漂流アドベンチャーとは少し趣きが違う。しかし、文学作品として読むなら、これは優れた作品なので楽しめるはずだ。
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