異邦人 ★★★★☆

小説
昨年、「フランス語で読もう」シリーズから、異邦人の対訳版が出版された。以前から某掲示板で、異邦人を強く勧める方がいらっしゃったので、私もフランス語で読んでみようと思い、まず日本語訳から読み直すことにした。この物語は、ムルソーという1人の男が、母の死を経験して、アラビア人を銃殺し、斬首刑になるまでの物語だ。ムルソーに欠けているのは、他人に共感するということだ。恋人のマリイから告白されても、「愛していても、愛していなくても、どっちでも同じことだ。」と答える。彼にとっては母親の死も面倒くさいイベントの一つでしかなく、婚約も、デートも、まったく気持ちの高揚を見せない。もちろん、彼には情欲があるから女を愛すが、それがマリイであっても、ほかの女でも同じなのだ。非常に無関心、無感動な男、ムルソーの視点から、フランス人の生活を描き出している。

ムルソーはレエモンという素行不良な男と知り合い、レエモンと共謀して彼の情婦をひどい目に遭わせたことから事件は始まる。そのレエモンの元情婦の兄を含むアラビア人の一団から恨みを買い、付け狙われることになる。レエモンの誘いで海へ出かけたところにもアラビア人の一団が姿を現し、最初は殴り合いで済んだが、ふとしたきっかけでムルソーは、ただ1人でアラビア人と遭遇して対決する展開になってしまう。そこで銃を持っていた彼はアラビア人を銃殺する。物語では、照りつける太陽の熱に極度に疲労し、正常な判断力がなかったかのように描かれている。だが、彼の裁判では、ムルソーがアラビア人を一発で殺害したあとも、とどめを刺すために、さらに四発の銃弾を撃ち込んだことが大きな問題になる。

また、ムルソーが母の通夜で、遺体と対面しなかったこと、涙を流さなかったことなどが挙げられ、彼は極めて冷酷非情な男だと糾弾される。裁判で検事は、もはやムルソーを一般人とはせず、彼は冷酷な悪魔だと決めつけ、計画的にアラビア人を殺害したと熱意をもって訴える。彼の事件とは無関係な、たまたま近日に行われる父親殺しの裁判と関連付けられ、ムルソーは凶悪犯として斬首刑になる。彼はただ、無関心、無感動で共感がないという性質の男だったが、この小説で描かれている裁判では非常に論理の飛躍がある検事の長広舌(ちょうこうぜつ)により、悪魔のように訴えられるのだ。そして、死刑。

淡々と出来事を描写する感情のこもらない文章という点は、どことなく、かつての私の文章に似ているような印象を受けた。これは俗にいうところの「自閉」を表す文章なのではないかなどと考えてみた。気持ちの高揚、感動や意気消沈といった感情の起伏が意図的に取り除かれた文体なので、人によっては嫌悪感すら覚えさせられるような表現形式だと思う。読んでいて確かに考えさせられるところは多いが、お世辞にも楽しくなるような小説ではない。そういう印象を与えるムルソーは、確かにフランス社会の中にいるフランス人であっても、理解されない、受け入れられないという点で「異邦人」なのだと考えさせられた。

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