三略 ★★★☆☆

書評
三略を読み終えた。北条早雲が最初の一節を読んで兵法の極意を悟ったとされる本だ。三略は、上略、中略、下略の三部構成になっている。上略は立派な人物を招くには手厚い礼遇と恩賞が必要であるということ、おびただしい家臣たちの間からいち早く腹黒い連中を見抜いて、これを排除せねばならないということ、部下の賞罰を行う際には、できる限り厳正確実でなければならないということなどを力説している。

中略は、太古の三皇五帝から王者や覇者にいたる各時代の徳行について、あるいは事を成就するためには臨機応変の戦略がいかに重要であるかということなどを詳説している。

下略は、天下に太平をもたらすためには道徳が不可欠であるということ、いち早く自分を含めた状況を見きわめなければならないということ、賢者を失うのがいかに大きな損失であるかということなどを詳細に敷衍している。

この本は全章にわたって軍讖(ぐんしん)という兵法書を引き合いに出して、兵法を説く形式を採っている。だが、一つ一つの章が論理的にまとまりを持っているというわけではなく、読むかぎりでは箇条書きという印象を受ける。

孫子の兵法や呉子は序章、本章、結論という構成で書かれているのに対して、三略はそういう論理構成を取らず、一節ずつ思いついたことを軍讖という伝説の兵法書の威光を借りて述べているという感じだ。上略、中略、下略でだいたいのまとまりはあるようだが、それも読む限りではどのようにまとめているのか、いまいちつかみにくい。三略は原書を読むより、解説書などがあったらそちらを読んだほうが理解しやすいと思う。

以下で私の印象に残ったところを一つあげてみたい。この本で一番印象に残ったのは、やはり序章の「それ主将の法は、努めて英雄の心をとり、有功を賞禄(しょうろく)し、志を衆に通ず。ゆえに衆と好みを同じうすれば、ならざるなく、衆とにくみを同じうすれば、傾かざるなし。国を治め家を安んずるは、人を得ればなり。国を亡ぼし家を破るは、人を失えばなり。含気の類、ことごとくその志を得んことを願う。」という一節だ。

これは孟子の説く義の教えと同じことを述べている。義とは衆人と好みを同じくし、にくみを同じくし、楽しみを共有し、悲しみをともにするという教えだ。要するに何かをやるときは一人で楽しむのではなく、みんなで楽しみましょうという教えである。武経七書の中では呉子が孟子の思想の影響を受けているが、この三略も大切なことは義であると述べる。一国を収める、軍隊を指揮する極意は、戦術や戦略ばかりが大切なのではなく、人心を一つにまとめることも重要だと述べる。武経七書の一つ、呉子では大軍が一糸乱れぬ動きをするとしたら、それは聖人の指揮する軍隊であると評価する。三略でも、兵士たちが川の水でのどをうるおしているところに一瓢の酒を流し、流れをともにすることで気持ちを共有したという話が出てくる。兵士たちと気持ちを共有し、人望や信頼を集めて、初めて将軍はその責務を果たせる。この本で一番印象的だったのは、そのことだった。

武経七書は軍事思想を体系化した本だが、それは孔子や孟子の説いた仁義の教えと同じものを見つめていた。国を治めるのも、軍を指揮するのも、戦争に勝つのもチームワークなくして所期の結果を上げることはできない。三略は特に家臣の扱い方を中心に書かれた本なので、とりわけ仁義礼を重要視しているように思われた。これから兵法を学ぼうという人にとっては、この本は少し刺激が足りないように思う。私は現代語訳を読んでから何度か読み下し文を音読してみたが、兵法というより、政治というニュアンスが強い印象を受けた。これはこれで兵家の説いた軍事思想の一つとして納得して、次に六韜を読んでみようと思う。皆さんも、機会があればぜひ一読されたい。
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