投資を究める ★☆☆☆☆

投資
この本は証券会社が書いた資産運用の教科書だ。株式投資、債権投資、投資信託、外貨預金、外国為替市場について書かれている。この本はコラムで小説を交えながら、資産運用の基礎を学ぶスタイルを取っている。序章「ビギナーズ大失敗」、第1章「株を学ぶ」、第2章「債権・外貨を学ぶ」、第3章「投資信託を学ぶ」、終章「赤羽君のチャレンジは続く」という構成になっており、赤羽君という小説の主人公がたびたび解説に登場する。本書はファンダメンタルズ分析中心の教科書で、株式投資の基礎を学ぶ章でも財務分析、ROA、ROE、PER、PBRなどを使った銘柄分析の手法、端株(ミニ株)や分散投資というファンダメンタルズ分析で中長期投資を行うときの基礎を学ぶことになる。債券投資では日本国債のリスクを学び、外貨預金や外国為替市場については為替リスクを学ぶことになる。また近年はやりの社会的責任投資(SRI投資)についても触れられており、出版年代は少し古いが、広く浅く投資の世界を学ぶ教科書としては良い仕上がりになっている。

この本は分散投資で東証に外国上場銘柄に円建てで投資することにも言及されているところは良いが、世界経済は連動するという点から、外国上場銘柄を取り入れたポートフォリオも確実にリスクを分散できるとはいえないと述べる。これは橘玲氏の『臆病者のための株入門』が提唱する世界市場ポートフォリオに対する反駁とも受け取れる。最近はベンチマーク運用が伸びないと言われており、さらに世界の主要銘柄に分散投資したとしても、経済のグローバル化で必ずしもリスクが分散されているとはいえない。この点でベンチマーク運用主体の世界市場ポートフォリオはリスクを回避し切れていないということになる。この本が出版されたのは2005年で、橘氏の本より1年早く出版されているため、橘氏への反駁というよりは、橘氏の提案より早く、投資手法の提唱とリスク解説をしていたということになる。これだけでも、読んでおいて良かったと思う。

以下で私の印象に残った点を3点ほどあげてみたいと思う。1点目は債券運用の章だ。一昔前の投資教科書には、国債は比較的リスクの低い金融商品ですと謳われている。日本がまさか財政破たんすることはないだろうという楽観的な見解だ。だが、近年ギリシアが財政破たんし、イタリアが財政危機に陥った。最近企業の資産運用担当者が強く意識しているソブリン危機の到来だ。日本の国債(ソブリン債)は、先進諸国の中ではきわめて低い格付けになっており、いつ日本が財政破たんするか分からないという危機意識が共有され始めている。一昔前の、財政赤字と自転車操業の日本政府という認識から、事態はさらに深刻化し、日本の財政破たんという危機意識が広まり始めたことは大きい。まさか、ここ1~3年の間に財政破たんするようなことはないと思うが、10年物国債になると不安はぬぐえない。このことが1番印象的だった。

2点目は、SRI投資(社会的責任投資)という新しい投資手法だ。これは環境問題や雇用問題などの企業の社会的責任と社会貢献に対する姿勢や実績を評価してポートフォリオを組む手法だ。地球環境問題や公害の問題は各国政府も真剣に取り組む課題だ。さらに、いまだに存在し続ける男女の賃金格差や待遇格差などのジェンダーの問題もある。そういう社会問題でイニシアチブを取れる企業を中心にポートフォリオを組んで資産運用するという現代的な運用方法といえるだろう。まず、ポートフォリオを組むときにつぶれそうな企業や業績が低迷している企業の銘柄で投資をするというのは、それだけでとてもリスクが高い。近年は世界的な不況が広まっているのでベンチマーク運用もパッとしない。そこでSRI投資という新しい着眼点が広まりつつある。このことも現代を読み解く1つのキーワードになっているので、とても良かった。

3つ目は、終章の『着眼大局、着手小局』だ。これは囲碁の諺で、1つひとつの手は小局を見て指すことになるが、大局を見失ってしまったら、小局の手も生かせないということだ。この節では、まず物事を3局に分類する。大局、中局、小局の3つだ。小局で起こる物事というものは、時間経過とともに大局に収れんされる。まず全体像をしっかりと把握して、途中経過を押さえて、それから細部での詰めをしっかりする。そうすれば細部で打つ手を見失うこともないし、全体像を思い出すことによって自分の理想の形を作ることができる。将棋でも羽生善治さんが同じようなことを言っていた。これはファンダメンタルズ分析やテクニカル分析に大いに役立ちそうで良かった。

この本は2006年に改訂出版された本で、投資の教科書としては決して新しいとはいえない。その点が玉に傷だった。だが、投資関連書籍を読む上で必要な基礎知識は一通り押さえてあるので、一読の価値はあると思う。証券会社の投資関連教科書を読んでも投資はできないが、一般の投資家が書いた本を理解するには、まず証券会社の教科書を読まなければいけない。その点で基礎を再確認できたので、読んで良かったと思える。ぜひ、皆さんも古書で良いので一読されてはいかがだろうか。
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