孫子 ★★★★☆

書評
この本は竹簡本の孫子の兵法13篇が収録されており、現代語訳、書き下し文、用語解説、内容解説の順で記述されている。

第1篇の兵は国の大事なりの有名な一節から始まり、将軍の心得、農民兵の扱い方、戦略、戦術と兵法が展開され、最終章火攻め篇の最終節で再び戦争が与える経済的損害をよくよく考えて行動しなければならないと締めくくる。

本の構成は大きく分けて二つ。前編に孫子の兵法と注釈があり、後編は解説になっている。

解説では、孫子の兵法が生まれた春秋時代、孫武のつかえた呉の国の歴史と戦争形態の変遷、わが国での孫子の兵法の扱われた方、世界史的にみる孫子の兵法の扱われ方が述べられ、最後の2章でテキストをめぐる論争など、学問としての孫子の兵法が解説されている。

この本で一番の特徴は1972年に中国で孫子の兵法とは別に孫賓兵法が発見されたことを受け、これまでの孫子の兵法の底本になっていた武経七書本や魏武注孫子ではなく、竹簡本をもとにして書かれている点だろう。

近年発見された孫賓兵法や2度の世界大戦における軍事思想などもふまえた解説はきわめて実践的に孫子を読みといており、単なる学問としての孫子を越えて、現場にいきる孫子を学ぶ視点からも魅力的だ。

また、孫武の誕生から数百年を経て現れた孫子の末裔、孫賓の記した孫賓兵法から、より具体的に孫子の言わんとしているところを解説している点もおもしろい。

春秋時代、中国には邑(ゆう)と呼ばれる都市国家が点在した。これらの邑では身分階級が定まっており、戦争を行うのは士大夫階級だった。

戦場は主に中原(黄河流域)の広い平原で、戦争形態は戦車を使ったものが主流だった。

その儀礼的な戦争形態を変えるのが、新興国家の呉である。呉人は漢民族ではなく、揚子江下流域に居住する未開の蛮夷であった。

彼らの住んでいる土地は戦車を扱うのに適した土地ではなかったため、軍の主力は歩兵であり、呉王闔閭は各国から優れた軍事顧問を受け入れた。

その中にいたのが孫武だ。歩兵を中心とした呉軍と孫子の提案した戦術は広く戦争形態に革命を起こし、呉王闔閭と孫武が国家運営の中心にいた時代、呉は中国でも屈指の武勇をはせた。

だが、残念ながら呉王闔閭が死亡してからの呉は衰退してしまい、他国に滅ぼされてしまう。優秀な軍師がいても、天下平定に至らないのが中国史のようだ。

孫子の軍事思想の背景には老子がいる。仁義を説いた儒家とは別に革命思想の原点になった老子の思想が表現の各所ににじみ出ている。諸子百家を生み出した春秋戦国時代には、さまざまな思想家の考えが影響し合っている。1冊読めば全てを学べるとはいかない点がやっかいだと思うが、そこがさらに学習意欲をかき立てる点でもある。孫子の他にも、呉子などの武経七書には儒家の教えも強く影響している。私は武経七書以外のものを読んだことがないが、次は仁義を説いた儒家の教えも勉強してみようと思っている。
 

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