ボイスCD 45秒?でわかる!萌訳★孫子ちゃんの兵法Vol.1 ★★★★☆

書評
これまで孫子の兵法を難しい学術書で勉強して、ちょっと気まぐれに『萌訳 孫子ちゃんの兵法』の朗読CDを買ってみました。これはすごくおもしろい。何より、これを買うような人はニート、引きこもり、オタクだろうと高をくくって語られているところがおもしろいです。聞いていて、そこまでひどくねえよってツッコんじゃいます(笑) 孫子ちゃんを担当してらっしゃる春井柚佳さんの声がかわいらしいというのもグッドです。

では、具体的に孫子の兵法を勉強する上で問題はないかというところを書いてみたいと思います。まず、計篇で五事七計の解説で「法」をシステムと訳しているところがよかったです。法とは法律、規律、軍制などを指しますが、それらを現代的に訳すと確かにシステム。また、天の時をタイミング、地の利をポジションと訳しているところも分かりやすいです。天の時というのは、文字通り天候から始まって、天運というような意味合いもあり、敵が天に見捨てられるような状況にあるかというニュアンスでも使われています。地の利は地形から得られる利益から始まって、布陣するのに有利な地形であるか、兵器を用いるのに有利な地形であるかというニュアンスで始まりますが、これも確かにポジションでOKでしょう。学術書ではもっと深くさまざまな解釈を漏らさず解説しているのですが、このCDを聞くぐらいのレベルの人にはタイミングやポジションという言葉に置き換えたほうが分かりやすいだろうという配慮だと思います。

しかし、問題がないわけではありません。私の気付いた限りでは問題が2点ありました。1点目は奇正の法です。正が正攻法というのは正解ですが、奇法は奇策ではありません。あるパターンが生じた時を正とすると、そのパターンを崩すような攻め方を奇法と呼びます。これは李衛公問対や孫臏兵法で解説されています。例えば敵味方が相対している時、こちらが一時的に退却を余儀なくされたとします。そこで退却したこちらを相手が勢いに乗って突撃してきた場合、優秀な兵のいる先鋒と劣った兵のいる後方とに戦陣は長く伸びてしまいます。そこですかさず別同部隊が相手の脇腹を突き、相手を分断することに成功すれば、今回の一時退却は奇法ということになります。退却という一つの戦術を取っても、正とも奇とも呼べるわけです。それを「奇策」と語ってしまっている点はちょっと違うなと思いました。

2点目は、迂直の計です。これは孫臏の採用した戦術を使って説明されることが多いのですが、敵より遅れて戦場へ向かい、敵より早く戦場に到着する方法というのがよく見る解説です。敵が攻めてきたとすると、こちらは直接敵のいる戦場へ向かいません。敵国の要衝へ攻め込み、敵がそちらへ向かうように仕向けます。さらに敵が要衝を守りきった場合、国境近くの隣接地を荒らしまわり、今度は敵がそちらへ向かうようにします。敵をあちらこちらへと引っ張り回し、敵の疲れを誘った上、あらかじめこちらが有利に布陣できるところに敵が向かってくるように仕向けます。こちらはあらかじめ有利に布陣できるところで敵を待ち構え、利によって誘い出した敵を迎え撃つ。本来は先に敵が戦争を仕掛けてきたにもかかわらず、いつの間にかこちらが最善の状態で戦える場が戦場になっているように仕向ける。これが迂直の計です。そこのところのニュアンスが、このCDではうまく伝えきれていませんでした。

この2点のほかは、だいたいうまくストーリーに盛り込んでいました。「生卵を手で握りつぶすがごとしだな。ぐしゃっと、こう、ぐしゃっと、こう(笑)」というところは、「え(笑)」って感じでした。たんを以て卵に投ずるがごとしと言いたかったのでしょうけど。なんか変な感じでした。例え話がちょっと変な感じがしましたが、参考になるところも多く、うまいなと思えるような現代語訳もあったので、本にはない魅力があると思います。ネタCDとしてはよくできていると思います。なんかアマゾンでたたき売りみたいになっていますが、これは十分に孫子を学んできた人にもお勧めできる商品です。
 

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