二人の兵法 孫子―孫武と孫臏の謎 ★★★☆☆

書評
この本は孫子の兵法を記した孫武と、孫臏兵法を記した孫臏について書かれた本である。全体の構成としては、まずプロローグで二人の孫子についての歴史的研究に触れている。第1章で孫武について解説し、第2章で孫臏について述べる。1章は4部構成になっており、春秋・戦国時代の歴史的背景、孫武の人物像、孫武の兵法についての概要、孫武の兵法の金言名句に分かれる。第2章も4部構成になっており、歴史的背景、人物像、孫臏兵法、金言名句となっている。

歴史的背景の部では、春秋・戦国時代を簡単な用語で分かりやすく解説している。人物像については、ほかの本と重なる部分があるが、著者独特の人物像の描き方をしているので、何冊も孫子関連の書籍を読んできた人でも楽しめるだろう。兵法概要では、世界各地の孫子にまつわる話を載せている。金言名句は戦争例を引いて具体的に解説しているので、要点を掴みやすい。

この本は、これまでの孫子関連書籍と比べるといくらかやさしい内容になっている。そのため孫子・孫臏兵法を学ぶ上では、入門の入門という位置づけだろう。だが、最初の1冊とするなら、とても親しみやすくてよい。

孫武の兵法で私が一番印象に残っているのは、戦争例の解説だった。1991年に起こった湾岸戦争での多国籍軍の戦術は孫子とクラウゼヴィッツだった。あの戦争は覇権国家アメリカをはじめ先進国が一致団結してイラクのクウェート侵攻を阻止した戦争だった。そのため兵器も最先端のものが使われ、圧倒的な軍事力の差でイラクを降伏させたようにニュースで流れた。

だが、多国籍軍の採用した戦法は孫子とクラウゼヴィッツに基づく極めて古典的で堅固な戦法だった。当時、戦争に参加したアメリカ軍兵士は「この戦争(湾岸戦争)は、孫子とクラウゼヴィッツで勝利しました。」とインタビューに答えたそうだ。常に軍事の最先端を追求するアメリカが、最も堅固で古典的な戦術を採ったという部分が、私にとって何より印象的だった。

孫臏兵法で印象に残っているのは、金言名句で解説される兵法の抜粋だった。私は孫臏兵法を読んだことがない。そのため孫臏兵法がどのような内容なのか分からなかったが、この本で抜粋されている名句は、わずかながらでもその雰囲気を伝えてくれる。

その中で一番意外だったのは、孫臏は守りよりも攻めを重視していたことだ。専守防衛ではなく、専攻防衛の思想だ。同時に、孫臏は城攻めを下策としない。これは平原でいくら戦っても、城を落として領土を拡大しなければ天下平定は叶わないからだ。ここには孫臏の生きた時代背景がある。孫臏の時代は、孫武が死去してから100年後、戦国の七雄が割拠する弱肉強食の戦国時代だった。戦争形態が多様化し、城攻めのための様々な兵器が開発された。孫臏の兵法書は、孫子のものより、実践を詳しく記したものが多い。兵をむさぼるものは滅びると述べながらも、徳だけでは天下を収められない現実を見据えていた。このことが孫臏兵法で一番刺激的だった。

中国の春秋・戦国時代は、諸子百家が登場した時代でもある。中国の主な思想は、この時代にできたといっても過言ではない。その中の兵家──孫子・呉子・孫臏──は現代の戦略思想の基礎になっている。中国はとても魅力的な国だ。いつか中国語でこれらを習いたい。
 

コメント

タイトルとURLをコピーしました